【第六話】汗だくの医師からの言葉と、ICUで名前を呼んでくれた日

長かった手術が終わったあと、看護師さんから呼ばれました。

「先生から説明があります」

しばらくして、手術室の奥から先生が出てきました。
白衣のまま、汗だくでした。

その姿を見た瞬間、
「やっぱり、本当に大変な手術だったんだ」と、すぐに分かりました。

私たち家族が緊張で身構える中、
先生は開口一番、こう言いました。

「旦那さん、お酒、飲みすぎやわ!」

その思いがけない言葉に、
思わず、家族みんなが少し笑ってしまいました。

8時間もの間、ずっと張りつめていた冷たい空気が、
先生のその一言で、ほんの少しだけほどけた気がしました。

ただ、手術は決して簡単なものではなかったようです。

予定では4時間ほどと聞いていた手術が、実際には8時間もかかった理由。
それは、手術中に出血が止まりにくかったためでした。

夫には肝硬変の疑いがあり、血小板が減っていたことで、血が固まりにくい状態になっていたそうです。
そのため、途中で何度か輸血をしながら、慎重に、慎重に手術を進めていったとのことでした。

先生は、手術の内容を一つ一つ丁寧に説明してくれました。

出血した血管には、クリップをかける処置(クリッピング)を行ったこと。
今はICU(集中治療室)で、厳重に管理していること。
さらに術後には「水頭症」が起こる可能性もあるため、しばらくは注意して様子を見ていく必要があること。

難しい話を聞きながら、
私はただ、何度もうなずくことしかできませんでした。

でも、ただ一つだけ、確かに分かっていたこと。
それは、**「夫は、あの長くて過酷な手術を生き抜いてくれた」**ということでした。

先生の説明が終わったあと、
ICUで、夫の様子を少しだけ見ることができました。

ベッドの上の夫は、
たくさんの管や機械につながれていました。
数日前の、家で普通に話していた時とは、まるで違う姿でした。

翌日、面会が許されました。
看護師さんが声をかけると、夫がゆっくりと目を開きました。

私の顔を見ると、じっとこちらを見ています。

「あ、わかってる」

そう思った瞬間。
ずっと胸の奥にたまっていた重たい塊が、スッと溶けていくのを感じました。

まだ意識がはっきりせず、普通に話すことはできなかったけれど。
横に座って顔を近づけると、かすかな声で、私の名前を呼んでくれました。

私は、ただその手を強く握りながら、

「手術、終わったよ」
「よく頑張った」

そう声をかけることしかできませんでした。

ICUでの、祈るような毎日は、
ここからしばらく続くことになります。

次回は、
**「術後せん妄の戸惑いと、 ICUで交わした約束」**
について書こうと思います。

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