【第二十六話】「ずっと窓の外を見ています」発見が遅れた6回目の発作と、不気味な静けさ

前回の発作から、9ヶ月後。
夫は、『6回目』のてんかん発作を起こしました。

今度は職場ではありませんでした。
自宅です。

その日、私は外出していました。
14時頃には夫から私のスマホに電話がかかってきていたので、少なくともその時点では普通だったはずです。

17時過ぎ。
帰宅した私は、夫が1階のベッド横の床に倒れているのを見つけました。

声をかけると、意識はありました。
でも、様子が明らかにおかしい。

目は開いているのに、反応がひどく鈍いのです。
言葉もはっきりしません。
今までの発作の時とも、明らかに違っていました。

私は、すぐに119番に通報しました。

18時過ぎ。
てんかんセンターのある病院へ到着。

CT検査では、脳内に新たな異常は見つかりませんでした。
まずは少し安心しました。
しかし、血液検査では別の異常がありました。

白血球の数値が『14000』を超えていたのです。普段の約4倍の数値。
どこかで強い炎症が起きている可能性がありました。

てんかん発作にはおおまかに、『部分発作(焦点発作)』と『全般発作』の2つのタイプに分けられます。

夫の症状は、**『強直間代発作(きょうちょくかんだいほっさ)』**という全般発作のタイプです。
全身の激しいけいれんによる強い身体的ストレスや、筋肉の激しい収縮によって、一時的に白血球の数値が上昇したのではないか、ということでした。

さらに、自力で生活できる状態ではなかったため、そのまま入院になりました。
夫が自分の名前を言えるようになったのは、病院へ到着してからでした。

翌日。
朝からLINEを送りました。

でも、一向に既読になりません。
返事もありません。
嫌な予感がしました。

病院へ電話して様子を聞くと、
「熱が高く、点滴をしながら休んでいます」とのことでした。

夕方、仕事終わりに病院へ向かいました。
面会はできないため、看護師さんに「会社への連絡をどうするか」夫に聞いてもらいました。

すると夫は、
「意味がわからない」
と答えたそうです。

胸がざわつきました。

いつもなら、違うんです。
入院するとすぐに電話がかかってきて、「あれ持って来て」「これ持って来て」と次々に横柄な指示を出してくる。それが夫でした。

でも今回は、何もない。
電話もない。LINEもない。

私はたまらず、看護師さんに様子を聞きました。
すると、こう言われました。

「スマホも触らず、ずっと窓の外を見ています」

その言葉が、妙に不気味で。
得体の知れない胸騒ぎが止まりませんでした。

先生にも話を聞きました。
今回の発作は、私が帰宅するまで『発症してから発見されるまでに時間が経っていた』可能性があるとのことでした。
てんかん発作が長時間続いた場合、脳の機能が正常な状態へ戻るまで、通常よりかなり時間がかかることがあるそうです。

私はただ、元に戻ってほしい。
どうか元の夫に戻ってほしい。
それだけを祈るように願っていました。

2日目。
朝、「朝ごはん食べた?」とLINEを送ると、ようやく初めて返信がありました。
「食べた」という短い返事でしたが、それだけで少し安心しました。

夕方には、持って来てほしい物をLINEで送ってきました。
まだ本調子ではない。でも、少しずつ戻ってきている。そんな感じでした。

3日目。
夕方、「カップヌードルとお茶がほしい」とLINEがありました。
そして夜。入院してから初めて、電話をかけてきました。
その声を聞いた時、ようやく少しだけ肩の力が抜けました。

4日目。
「枕と目薬持って来て」「タバコも」
いつものようなLINEが届きました。

病院の許可をいただき、入院後初めて面会することができました。
夫の様子を見る限り、記憶はほぼ戻っているようでした。

「タバコは吸えへんって分かってる」
そう話していました。
そして、「明日、先生に聞いて大丈夫やったら退院したい」とも言っていました。

5日目。
先生から退院の許可が出ました。
その日の夜、退院。

私は正直、ほっとしました。
また家に帰れる。また、いつもの普通の日常が戻る。
そう思いました。

でも——。

その日の夜から、夫はまたお酒を飲み始めました。
タバコも再開しました。
そして退院からわずか6日後。夫は再び仕事へ戻りました。

何度倒れても、立ち上がる。
それは、夫の強さなのかもしれない。

でも私は、

いつか、本当に戻れなくなる日が来るんじゃないか。

そんな恐ろしい不安を、ずっと心の奥底に抱え続けていました。

次回は、
**【人生の楽しみと、不安の中での葛藤の日々】**
について書こうと思います。

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