【第二十二話】「お前、ずっと変やった」夫の一言で解けた呪縛と、社会復帰への準備

退院してから5週間。

この頃になると、夫の意識や様子も、少しずつ変わってきているように感じました。
ある日、夫から突然こんなことを言われました。

「なんか、お前ずっと変やったで」

ハッとしました。

退院してからというもの、私はずっと気を張っていました。
夫が何を言っても、怒らせないように。
病気(脳)を刺激しないように。
とにかく、不自然なほど笑顔でいようとしていました。

でも、それが夫には**どこか不自然で変な態度**に見えていたようでした。

目の前にいるのは、確かに私の夫です。
姿も、声も、見た目も何も変わらない。
なのに、まるで『薄い膜』が一枚かかっているような、埋められない違和感がずっとありました。

寂しさ。悔しさ。不安。
私の中にもいろんな感情が渦巻いているのに、それを必死に押し込めて、

「大丈夫、大丈夫」

そうやって、嘘の笑顔を作っていました。
だから、

「変な感じで嫌やった」

と、夫にズバッと言われたとき。
不思議と、私の心は少し楽になったのです。

『あぁ、もう無理して笑わなくてもいいんだ』と。
その日、今まで言えなかった不安や本音を、二人で少しだけ話すことができました。

リハビリは先週から、『病院へ送っていくだけ』になりました。
帰りは、自分で電車に乗って帰ってきます。
ゆっくりと、少しずつですが、出来ることは確実に増えていました。

ある日。
私が出勤する途中で、偶然、夫の職場の人たちと会いました。
みんな、夫のことを本当に心配してくれていました。

「もうちょっと、ゆっくり休んだらいいのに」
そんなふうにも言ってくれました。

病気のこと。仕事のこと。昔のこと。
立ち話でしたが、いろんな話をしました。
そして、こう言ってくれました。

「職場にいる時に、もしまた発作が起きても、俺らがちゃんと対応するから安心して」

その言葉が、本当に、本当にありがたかった。

夫は、今までもたくさんの人に支えられて生きてきました。
そして、これからもきっと、いろんな人に守られながら生きていくんだと思います。
だからこそ、そのことを決して忘れず、周りに感謝して生きていってほしい。
そう強く思いました。

ただ、現実はそう簡単ではありません。

あれだけ大きな病気をしても、夫はまだ家でお酒を飲んでいました。
(※前の外来で先生が「別にいいんじゃない」と言ったせいで)タバコも減るどころか、むしろ増えていました。

また倒れるんじゃないか。
私の不安が消えることはありません。

そんな中、夫は昼から散髪と白髪染めをしに美容室へ行きました。
身なりを整える。それは、少しずつですが、本人なりに社会復帰(仕事復帰)へ向けて準備を始めている証拠でした。

前へ進もうとしている。

その頼もしい姿を見ながら、
私は『早く安心したい気持ち』と、『また倒れるんじゃないかという怖さ』の間で、ずっと静かに揺れていました。

次回は、
**【退院から1ヶ月半。復帰への焦りと、立ちはだかる見えない障害】**
について書こうと思います。

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