
退院してから、夫は少しずつ日常生活に戻っていきました。
体の回復は驚くほど順調で、
あんなに管に繋がれ、ICUにいた頃のことが嘘のように感じることもありました。
「ここまで来られて、本当によかった」
そんなふうにホッと胸を撫で下ろしながら、
私たち家族の生活も、少しずつ元のペースに戻っていきました。
なんと、くも膜下出血の手術からわずか2ヶ月で職場にも復帰。
「本当にあんな大病をしたの?」と、本人も周りも不思議に思うほどの奇跡的な回復ぶりでした。
しかし。
退院して3ヶ月ほど経った頃、思いもよらない出来事が起こります。
夫の頭の、手術をした傷跡のあたりに、プクッと腫れのようなものができてきたのです。
最初は、
「どこかにぶつけたのかな?」
「手術のあとだから、まだ少し腫れるのかな?」
その程度に思っていました。
ですが、念のため病院で診てもらおうと受診すると、
**「皮下膿瘍(ひかのうよう)」**と診断されました。
一度目の開頭手術をした部分に細菌感染が起き、
皮膚の下に膿(うみ)がたまってしまっている状態でした。
そして医師から告げられたのは、
「感染を抑えるために、もう一度『開頭手術』をする必要がある」という残酷な事実でした。
さらに、感染した骨を取り除くため、
**「頭蓋骨を一度、取り外す必要がある」**という説明でした。
せっかく痛みに耐え、乗り越えたと思っていた手術。
まさか、また頭を開くような手術を受けることになるなんて。
選択の余地はなく、その日のうちに緊急入院。
そして次の日には、2回目の手術が行われました。
時間は2時間半。
8時間かかった最初の手術に比べると、あっという間に終わったように感じました。
再手術のあと、
2回目も驚異の回復力。1週間で退院、その10日後には職場復帰もしました。
ただ、夫の頭は「頭蓋骨の一部が取り外された状態」になりました。
感染が完全に治まるまで、骨を戻すことはできないとのことでした。
その期間は、およそ8ヶ月。
思っていたよりも、ずっとずっと長い時間でした。
夫の頭を見ると、
頭蓋骨がない部分が、少しへこんでいるのが分かりました。
最初にそのへこみを見たときは、やはり恐怖で胸がざわついたのを覚えています。
そこからは、綱渡りのような日々が始まりました。
骨がない頭を、とにかく守らなければいけません。
転ばないように。
どこかに頭をぶつけないように。
それまで当たり前だった日常の動作一つ一つにも、
細心の注意を払いながら生活する必要がありました。
それでも、夫の体自体はとても元気でした。
普通に歩き、普通に会話もしていました。
だからこそ、
「早く骨を戻して、安心させてあげたい」
その思いばかりが強くなっていきました。
そして、長い8ヶ月が過ぎ。感染が完全に落ち着いたのを確認して、夫は「人工骨」を入れる手術を受けることになりました。
くも膜下出血発症の翌年、3度目の開頭手術へ。時間は2時間50分でした。
セラミックス製の人工骨が無事に入り、頭の形も元に戻った日。
「この手術が終われば、今度こそようやくすべてが落ち着く」
「これで本当に、元の日常に戻れるんだ」
その時の私は、心からそう信じて疑いませんでした。
ですが——。
この「3回目の入院中」に、私はある決定的な出来事に直面することになります。
それは、命が助かったというこれまでの安心感を揺るがすような、あまりにも大きくて、決定的な「違和感」でした。
次回は、**「3回目の手術。その入院中に起きた、決定的な違和感」**について書こうと思います。
