【第四話】病院での検査と、医師から告げられた言葉

病院に到着すると、夫はすぐに検査室へと運ばれていきました。

ストレッチャーのまま廊下を曲がり、
冷たい白い扉の向こうに消えていきます。

私は、その扉の前で立ち止まりました。
それからしばらく、何もすることがありませんでした。

誰もいない廊下のパイプ椅子に座り、
ただ、時間が過ぎるのを待ちます。
壁にかかった時計の秒針の音だけが、
やけに大きく、頭の中で響いていました。

どのくらい時間が経ったのか、正直よく覚えていません。
ふいに名前を呼ばれて、診察室に入ります。

大病院のイメージとは少しかけはなれた、気さくな感じの先生が座っていました。
私の目をまっすぐに見て、落ち着いた声で説明を始めました。

「驚かれると思いますが、旦那さん——」

そこで、ひとつの言葉を聞きました。

「くも膜下出血です」

頭の中で、その言葉がうまく意味を持ちませんでした。

くも膜下出血。
もちろん、聞いたことはあります。
でも、それが今、自分の家族に起きていることだとは、
どうしても理解が追いつきません。

なぜなら、私がニュースやテレビで見て知っていたその病気は、今の夫の状況とは、あまりにもかけ離れているからです。

『雷に打たれたような突然の激しい頭痛が起こり、そのまま意識を失う』

私の記憶の中では、そんな恐ろしいイメージでした。
たしかに夫は、青白く弱々しい状態でしたが、さっきまでちゃんと私と話せていたんです。

だから、目の前の医師の言葉と、夫の姿が、どうしても結びつかなくて。

続けて、いくつかの説明をされました。
くも膜下出血は、脳の動脈にできた「脳動脈瘤」というコブが破れて起こる病気ということ。
これから行われる手術のこと。それに伴う、命のリスクのこと。

ちゃんと聞いているはずなのに、
やっぱりどこか、現実のことのように感じられませんでした。

医師から説明を受けたあと、
夫はそのまま全身麻酔で眠らされることになりました。

出血の影響で、脳の状態がまだ安定していないこと、
再出血した場合、助からない可能性が高いこと。

そのため、慎重に状態を見ながら
翌日に手術を行う、とのことでした。

夫はそのままICUへ運ばれていきました。

看護師さんから入院の説明を聞いて、
何枚もの書類に自分の名前を書いた後、病院を出ました。

時刻は日付が変わる頃になっていました。

タクシーを呼んで、最寄り駅まで行きました。
初めて来た病院だったので、その駅も初めてでした。

駅のホームで終電を待つ間、息子と娘に電話をかけました。

同居している義母には顔を見て話したほうがいいと思い、かけませんでした。

自分の子供がそんな状態になっていることを知ったら、
心配でどうにかなってしまうんじゃないか。
子供たちに電話をかけた時に、ふと、そう思ったからでした。

その後、夫の同僚に電話をかけて状況を説明しました。

「絶対、大丈夫」
そう言ってくれました。

電話を切った後、なぜだか、急に、とてつもなく寒くなってきました。
ベンチに座ったまま、震えと涙が止まりませんでした___。

次回は、
**手術室の前で、待つ時間**
について書こうと思います。

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