【第十四話】悪化していく意識。脳を圧迫する「謎の影」と、見えない不安

あと少しで、本当に退院できる。
そう信じていた矢先に起きた、一時外泊中の「てんかん発作」と再入院でした。

翌日。私は何度も何度も、夫のスマホに電話をかけました。

でも、つながりません。
嫌な予感しかしませんでした。

いてもたってもいられず、病院に電話をして様子を聞きました。
夕方になって、ようやく本人が電話に出ました。

「頭が痛い……」

そう言っていましたが、どこか声の様子がおかしい。
自分が今どんな状況にいるのか、あまり分かっていないようでした。

心配になり看護師さんに確認すると、「頭に巻いているガーゼがきつくて、痛みが出ているようです」とのことでした。

夫の脳の中にあるという、謎の血の塊のようなもの。
昨夜、目の前で見た激しいてんかん発作。

怖いことばかりが頭に浮かびます。
それでも、

**「絶対に元の生活に戻る」**

そのことだけを、必死に考えていました。
絶対に乗り越える。絶対に笑い話にする。絶対に大丈夫。
そうやって、自分自身に強く言い聞かせていました。

その夜、夫から電話がありました。
声を聞けたとき、本当に嬉しかったのを覚えています。

しかし翌日。また電話をかけると、出てはくれましたが、

「ちょっとよく分からん……寝るわ」

と、明らかに意識が混濁しているような状態でした。
不安が消えることはありませんでした。

私はたまらず病院に電話をして、「先生と直接お話がしたいです」と伝えました。

15時前、病院から連絡がありました。
「これからCTとMRIを撮ったあと、先生から説明があります」とのこと。
15時45分頃にMRI前の問診の電話があり、私は16時過ぎに病院へと急ぎました。

検査のあと、車椅子のままでしたが、夫と会うことができました。
まだ状況はよく分かっていない様子でしたが、いつもの大きな声を聞いて、少しだけホッとしました。

そのあと、主治医の先生から説明がありました。

病院に搬送されたあとに撮ったCT画像で見えていた**「血の塊のようなもの」**
それが、昨夜の約3倍の大きさに広がっているとのことでした。

そして、
「頭蓋骨の外側で腫れていたその異物が、人工骨の隙間や、倒れたときの衝撃によってずれた部分から、頭蓋骨の内側に入り込んでいる可能性があります。こんな症例は、私自身も初めてです」

という、信じられない説明でした。

外の腫れが、脳の中へ……?
正直、すぐには理解できませんでした。

今後について。

腫れ止め、痙攣を抑える薬、その他の薬を組み合わせて点滴を行い、このまま2日ほど様子を見る。
もし、その異物がさらに大きくなったり、手足の麻痺などが出てきた場合は、

「再び手術をして、取り除く必要がある」

とのことでした。
また、夫の意識や記憶がはっきりしないのも、その異物による「脳の圧迫」が原因と考えられるそうです。

この説明を聞いて、外泊の前日、夫が血だらけでパニックになって電話をかけてきたあの時、
てんかん発作が起きて、病院のベッドから転落して頭を打ったんだと確信しました。

正直、言いたいこと、聞きたいことはたくさんありました。

あの時に検査をして的確な診断をされていたら、薬の治療もできていたんじゃないか。
そうしたら、外泊をすることもなく、出血もせずに済んだんじゃないか。
異物はこのまま、自然に吸収されていくのか。
それとも、4度目の手術になってしまうのか。

ただ、もう、祈ることしかできませんでした。
見えない不安に押しつぶされそうでした。
ただただ、怖くてたまりませんでした。

それでも。

夫は今、私の目の前で、必死に生きようとしている。

だから私も、前を向くしかありませんでした。

絶対に大丈夫。
絶対に元に戻る。

そう強く信じることしか、私にはできませんでした。

次回は、
**「祈り続けた数日間。そして出た結論」**
について書こうと思います。

上部へスクロール