【第八話】一般病棟への移動と、立ちはだかった「3つの壁」

術後しばらくして、
夫はICU(集中治療室)から、一般病棟へ移ることになりました。

ICUを出ると聞いたとき、私は正直、心からホッとしていました。
「ああ、これでようやく、少し落ち着くのかな」
そんなふうに思っていたからです。

でも実際には、まだ完全に元通りというわけにはいきませんでした。
安心したのも束の間、私たちの前に新たに「3つの大きな壁」が立ちはだかりました。

まず一つ目は、「水頭症」の懸念です。
くも膜下出血のあとには、脳の中を流れる髄液の流れが悪くなり、水頭症という合併症が起こりやすくなるそうです。

術後しばらくは頭にドレーン(※脳に溜まった血液混じりの髄液を体外へ排出させる管)を入れたままにし、髄液を外に出しながら状態を見ていく必要があると説明を受けました。

夫のベッドの横には、髄液が流れていく袋が置かれています。
医師や看護師さんは、その量や状態をこまめに確認してくれていました。

私はその袋を見つめながら、
「これで本当に大丈夫なんだろうか」
「このまま、水頭症になってしまわないだろうか」
そんな不安ばかりを抱えていました。

ドレーンは、1〜2週間ほど入れたまま様子を見るとのことでした。

二つ目の壁は、「両手の拘束」でした。
一般病棟に移った夫は、両手をベッドに拘束されていました。
無意識のうちに頭のドレーンを抜いてしまうと、命に関わる大変なことになるため、
患者の安全を第一に考えての処置です。

頭では理解できても、やはり本人にとってはそれが一番辛いことのようで、
「とにかくこれだけは外してほしい」と何度も懇願されました。

先生と相談し、私が付き添っている間だけは外してもらえることになりました。
ただ、まだ術後せん妄のような状態も続いていたため、ふいにベッドから立ち上がろうと急に動いてしまうことがあります。

「動いたらあかん!」と慌てて制止させることが、何回もありました。
そのたびに「管が外れてしまうんじゃないか」と、本当に命が縮まる思いでした。

三つ目の壁は、「強い頭痛」でした。
くも膜下出血のあとには強い頭痛が残ることもあると聞いてはいましたが、実際に痛みに苦しむ姿を目の前で見ているのは、とても辛いものでした。

痛みが強い日は、鎮痛剤が欠かせません。
顔をしかめながら、「頭痛い…」と呟く夫。

しかし、鎮痛剤の使用できる間隔(時間)は限られています。
薬が使えるようになるまで、あと何時間、あと何分……。
時計の針を見つめながら、ただ痛みに耐えるのをそばで見守るだけの、もどかしい時間が続きました。

大きな手術をしたばかりの体です。
回復には時間がかかると頭では分かっていても、やはり気は休まりませんでした。

そんな中、少しずつですがリハビリも始まりました。

幸いなことに、夫にはどこにも麻痺が残っておらず、体自体は元気でした。
だからこそ、一歩ずつ前に進むことができました。

ドレーンポーチ(管と袋を入れるバッグ)を首から下げて、少しずつ体を動かせるようになり、
やがてトイレも自分で行けるようになりました。

時間はゆっくり、ゆっくりでしたが、
夫の状態は確実に、少しずつ落ち着いていきました。

次回は、
**「病室で見たニュースと、束の間の穏やかな時間」**
について書こうと思います。

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