【第二話】夫が倒れた、その瞬間

今でも、ときどき思います。

もし、あの日、ほんの少し何かが違っていたら。
もし、あの時、私が別の場所にいたら。
もし、もう少しだけ、気づくのが遅れていたら。

その後の人生は、きっと大きく変わっていたのだろうと。

夫が倒れた、2020年2月。
その日も、決して特別な日ではありませんでした。
仕事をして、家に帰り、いつものように夜を迎える。
そんな、ごく普通の一日のはずでした。

「今どこ?……なんか体が変。」

夫から電話があったのは、突然のことでした。
その日は体調が悪そうな様子もなく、いつも通り仕事に行ったはずでした。

でも、電話口のその言い方が、いつもと少しだけ違ったんです。声に張りがない、ボソボソと話す感じ。

その時は何か、うまく言葉にできない「違和感」がありました。
ひどく変な気持ちになって、私はとにかく出先から家に戻りました。

玄関のドアは開いたままで、スリッパが乱雑に脱ぎ散らかされていました。
慌てて2階に上がると、ベッドに静かに横たわる夫の姿がありました。

「どうしたん?」

状況を聞くと、家に帰ってご飯を食べて、お風呂に入ろうとしたときのこと。
脱衣所で服を脱ぎかけたとき、くしゃみをした。
そのあと急に膝に力が入らなくなって、そのまましゃがみこんでしまった、と。
そして、とりあえず自力でベッドに戻ってきて、寝ている。そう言いました。

いつもなら。
「どうせまた、二日酔いの頭痛やろ。頭痛薬飲んで寝る?」と、しょうもない冗談の言い合いになる流れです。

でも。
青白い顔で、ボソボソと話す夫の姿には、「違和感」しかありませんでした。

救急車を呼ばなければ。

あの瞬間、私が何を考えていたのか、実はよく覚えていません。
ただ、なぜか、震える手で電話をかけていました。

___PM19:18 119番通報。

遠くから、救急車のサイレンが近づいてくる音が聞こえました___。

その時はまだこの出来事が、これからの私たちの人生に、
どれほど大きな変化をもたらすのかなんて、まったく想像もしていませんでした。

「くも膜下出血」

その残酷な病名を聞くのは、もう少し後のことになります。

次回は、
**「救急車の中でのこと、あのときの思い」**
について書こうと思います。

上部へスクロール